桟橋と帆船

更新日:2020年03月06日

離島や郡外を結んだ石垣島唯一の桟橋、美崎の海に突き出たこの木造桟橋を拠り所に、人も物も行き交う光景が朝な夕な見られた。あの頃は時間もゆったりとしていたせいか、まさに風物詩そのものであった。
  「小浜竹 米とばんしゅるを積み込んだ 帆船の 小浜航路 茶っぽい大きな三本の帆が 次々とたたみこまれ」とその光景を詠んだ田代秀子さんの詩は、まざまざと往時を思い起こさせてくれる。
  当初の桟橋は、ほとんど松材が使われていた。橋上の分厚い横板と横板の間には下駄の歯が入りそうな隙間があり、そこから青く澄んだ海が見え、さわやかな風も吹き上げてきた。時折、サバニがその下を行き交った。
  帆船は「おもかー」「よーそろー」などと独特の節回しで大声をあげる船員の声とともに桟橋にゆっくりと横付けされ、いろいろな物資が陸揚げされた。缶に詰められたバンシル(バンジロウ)特有の香りもあたりに漂う午後のひととき、太陽が西表の山並みにかかり、夕焼け色があたりを染めた。
  ところで八重山桟橋株式会社による木造桟橋が竣工をみたのは大正一三年(一九二四)一二月のこと。これにより乗降客の不便も解消したが、昭和八年(一九三三)、未曾有の台風により崩壊、同一一年にコンクリート製の石垣町営桟橋として生まれ変わった。 (文・崎山直)