竿秤と笊のある風景

更新日:2020年03月06日

竿秤と笊のある風景

竿秤と笊のある風景
〔昭和36年〈1961〉8月18日。公設市場〕
写真撮影・安藤萬喜男

路上での商い風景

路上での商い風景
〔昭和36年〈1961〉8月18日。公設市場付近〕
写真撮影・安藤萬喜男

魚売りのおばさんとカンタンフク(簡単服)姿の主婦と思われる二人が何やら深刻そうな顔で竿秤の目盛りに見入っている。
  「姉さん、見て。こんなにシーブン(添分)してあるよ」「ほんとー、そうかねー」。そんな会話が交わされていたのであろうか。昭和三六年(一九六一)夏の公設市場付近の光景である。
  当時の市場では、所狭しとバーキ(笊)を置き、我先に買物客に声を掛けて売りさばく商魂たくましい魚売りのおばさんをよく見かけたものである。
  そして、昼下がりの市場には、サバ(草履)を履き、マチィティリィ(買物籠)をさげた主婦たちが、三々五々集まってきて、そこらの魚売りのおばさんたちなどに声を掛けられると立ち止まり、「ガチュンはあるねー。安めてくれるー。」と夕食の材料を物色していた。
  よく見ると、店の軒先には、タマネギ、ゴボウ、センギリ(切干大根)、ニンニク、果物などが桶や木箱の上に並べられている。当時を知る人にとってはなつかしい光景である。
  写真が写された時から、ほぼ四〇年の年月が経過し、公設市場の周辺も一変し、服装も店構えも、かつての面影はない。それに、路上の商い光景も見られなくなり、シーブンという言葉もあまり耳にしなくなった。
  一昔前の生活ぶりが偲ばれる写真である。 (文・松村順一)